格調高い古典柄と落ち着いた地色が醸し出す堂々たる風格と、京友禅の可愛らしいタッチがあどけなさを覗かせる、二面性を秘めた、魅力的な一枚です。

「教養の象徴であり技芸の上達を願う柄」とされながら、豊作を意味する吉祥文様でもある【鼓】と、
優雅な平安時代への憧れから生まれた王朝文様の代表のひとつで、大変「高貴な柄」とされている【御所車】の存在感。

植物では、松や桜、菊が印象的です。
【松】は「忍耐力」や生命の誕生を意味し、【桜】は五穀豊穣に加えて「事の始まり」を意味しております。長寿を象徴する【菊】は「皇室の御紋」としても有名ですね。

朝廷を舞台として栄えた平安時代は、貴族を中心に雅な王朝文化が開花した時代ですが
そのような宮廷社会においては、漢詩や和歌を詠んだり、楽器を奏でたりといった、文学、音楽的な素養が欠くことのできない嗜みとされていたそうです。

『貴族が高貴であったり、そのように見えたりするのは、高い教養を持っていたり、上品なたち振る舞いをしているから。
それらは幼いころからの教育や上流社交界の場に出ることによって身に着け、洗練されていったもの。そしてそれらを可能にしたのは、十分な時間。
時間的余裕から生み出される趣味の洗練は、やがて上流階級全体に対しての厳格で高貴な作法となっていく。その結果、たち振る舞いも洗練され、それが精神にも影響をおよぼして、それに従った精神を作ってゆく。』
前述したものは、以前ノブレス・オブリージュについて調べていた際に偶然出会ったものだったのですが、こちらの振袖はまさにその全てを絵柄に落とし込んだかのような一枚のように感じます。

主要となる絵柄とそれぞれの意味を見ていくことで、あえて語らずとも、願や意図を込めることができるお着物の世界の奥深さと、
それを汲み取る楽しみを感じて頂けたら嬉しいです。

長く受け継がれてきた職人技による優美で繊細な絵付けが施された振袖には、近頃なかなか出会えなくなっていると感じます。
そうした品を探されている方にお勧めしたい一着です。