偉大なるロシア・ピアニズムの伝道者として
綺羅星のごときピアニスト達を育てた世紀の大教育者の全貌に迫る!

ヤコブ・ザーク、ギレリス、ヴェデルニコフ、リヒテルといった戦後ソ連から綺羅星のごとく輩出された巨匠たちを育てた伝説のピアノ教師の遺産をまとめたBOX。1996年に限定盤として発売され、またたく間に品切れとなりました。
ゲンリヒ・ネイガウスは、ドイツ=スウェーデン系の音楽一家に1888年、現在のウクライナに生まれました。親戚筋には、ホロヴィッツの師として知られるピアニスト=作曲家のブルーメンフェルト、作曲家のシマノフスキらがいます。ウィーンで大ピアニストのゴドフスキに師事し、将来を嘱望された若者でしたが、第一次世界大戦およびロシア革命の勃発によって、ピアニストとしてのキャリアの出鼻をくじかれてしまいました。ロシアに帰国後は、1922年から死去する1964年までモスクワ音楽院の教授を務め、数多くのピアニストを育てます。35年から2年間は、同音楽院の院長のポストにも就きました。
G・ネイガウスというと、ベストセラーとなった『ピアノ奏法論』の影響もあってか、わが国では「教育者」としての面ばかりが強調されますが、この一連の録音を聴くと、フルトヴェングラーやコルトーといったアーティストと相通ずる「偉大なロマンティスト」としての演奏家像が明らかになるでしょう。深い教養とセンスを併せ持ったピアニスト、インテリゲンチュアとして尊敬を集めたネイガウスでしたが、その演奏は即興性に満ち、激しい感情の起伏に富んだ音楽を聴かせてくれます。まさに文学的、哲学的な思索に裏打ちされた表現と言えましょう。
その貴族的でスタイリッシュな音楽表現で、子息のスタニスラフはモスクワっ子のアイドル的存在のピアニストとして活躍し、孫であるブーニンのスターぶりは今さら強調する必要もないでしょう。ゲンリヒ・ネイガウスが蒔き育てた香り高いロシア・ピアニズムの精華は、今もなお綿々と受け継がれているのです。
監修者にはネイガウス家とつながりの深いM・リツキーとネイガウスの弟子でありその録音について最も詳しいI・ニコノーヴィチを起用。モスクワ放送とモスクワ音楽院に保管されているテープを監修者立ち会いのもとで修復、魔術的とも言われたネイガウスのサウンドが蘇りました。これを聴かずして20世紀のピアノ演奏については語れない。